これを1回読めば、家族信託を理解できる!!

日本一わかりやすい「家族信託」の説明を目指しました!!

 家族信託は、優れた機能があることをご存じの方も多いと思います。ただ、理解が浅くその利用を進めることには、不安を抱えている方々も少なからずいらっしゃると思います。これからお話する内容で、「よし、これでいこう」と皆様の前向きな判断を得ていただければ幸いです。家族信託は遺言や後見制度を代替する生前対策(終活)や制度のひとつとして、まずは捉えてください。その上で、他の生前対策(終活)とは何が違うのかを本稿で理解してください。
それでは、家族信託の仕組みと特徴から始め、その後に利用法、留意事項を分かりやすく解説します。

1.仕組みと特徴について
家族信託の契約を分かり易く表現するとこうなります。

Aは、Aの財産をBに託します。財産をAから託されたBは、Cの利益のために託された財産の管理や処分をします。

通常、家族信託の組成と運用は1人のみでは成しえません。組成にあたっては以下の3者を最初に決めます。Aが家族信託の契約と設定開始を意思決定するとしたなら、Aは「委託者」になります。そして、委託者は家族信託を主導的に組成します。委託者は、保有する財産を託する受託者(B)、その財産から利益を得る受益者(C)を決めます。・・・・
「委託者(A)」・・自分の財産の管理処分を受託者に託す者
                 ⇓(委託者が託した財産は信託財産になる)
「受託者(Aが信頼する者B)」・・Aとの契約により、信託財産を、受益者のために
               管理・処分する者

                 ⇓(信託財産から受益権が組成される)
「受益者(Aや他の第三者C)」・・受益権保有者(信託財産から利益を得る者)

これをもとに、前記の表現を言い換えると・・・
Aは、自分が信頼している者Bに信託財産として自分の財産を託し、Aや第三者Cが信託財産から利益を得ることを目的に信託財産をBに管理処分してもらいます。
となります。また、託し・託される財産はお金や不動産等金銭的価値のあるものであればいいです。
 ※なお、委託者・受託者が同一人物(自己信託)の組成も法的に可能です。しか
  し、本稿の説明を読むうえでは、理解の混乱を避けるため、あまりこのことは考
  えないでください。

 家族信託は、委託者と受託者の2者が「委託者の財産を受託者に託します」という契約を結び、スタートします。
 
ここで、家族信託契約で受託者の管理下に入った「信託財産」は、優れたからくり有していることを理解しなければなりません。上記の内容をより分かり易く解説します。たとえば・・・
ご自宅をお持ちの方も多いと思います。ここで、父一人がそこに住み、長女が近隣に居住していると仮定します。通常、自宅を建立し居住している人は、その土地や建物の「所有権」を有しているという状態です。「所有権」は、自宅であれば「そこに住む・それを管理する・それを売却等で処分する」等を権利として一体化し内包しています。これは、民法上の決め事です。しかし、「住む」という収益権(住むことは自宅から得られる収益です)と「管理し処分する」という管理処分権でそれを区分して考えることも可能です。信託法ではこの所有権を収益権(信託では受益権といいます)と管理処分権に分離し、分離された権利を複数人がそれぞれ保有できるとしているのです。つまり、委託者(父)が所有している自宅の収益権(受益権)を父に、管理処分権を長女にという具合に、それぞれ分けて権利保有させることを可能とした訳です。これが、家族信託の最大のからくりであり、ポイントなのです。それでは、このからくり(特徴)を生前対策や終活の一環として活かすにはどのように利用すればいいのでしょうか。

2.利用法について
この信託法に準拠した家族信託契約のからくりを利用すれば、高齢の委託者にとって、財産管理の側面から「安心の生活」を今後も継続することが可能になります。前述の事例で言うと、委託者(父)が、加齢のため認知症や寝たきりになる不安を抱えて生活している場合、健常なうちに家族信託で保有している自宅を信託し、その管理処分権を受託者(長女)に与え、収益権(家族信託では受益権といいます)を父が持っておくという対策が考えられます。不幸にも父が認知症になってしまったなら、施設に入ることも検討しなければなりません。施設の入居生活が、持っているお金のみではカバーできない費用がかかるため、自宅を売却処分して資金を捻出する必要が生じるとしたなら、売却処分という法律行為を認知症の父にはできません。ところが受託者として「管理処分権」を有している長女は契約にもとづく単独の判断と行動で自宅を売却処分できるようにする訳です。また、お金も信託財産にしておけば、父はたとえ認知症になっても、定期的にそれを管理する長女から生活費として支給を受けたり、自分の医療費等に充当させたりすることも出来るようになる訳です。これにより、詐欺等の被害も防げるようになります。加えて、将来父が亡くなったときには、残った信託財産の承継先を長女や第三者に指定しておくことも家族信託の設計では可能です。前者は、家族信託が有する「後見的機能」であり、後者は「遺言機能」と位置付けることができます。つまり、後見契約と遺言作成を家族信託というひとつの契約でカバーすることができる訳です。

ここで押さえておくべき、重要なポイントがあります。
それは、スタート前に委託者は「なぜ家族信託の契約をするのか」、つまり「信託の目的」をしっかり定めなければならないということです。前述の例で言うと委託者(父)は、自分の認知症等発症の際には自宅を売却処分して施設入居費用に充当してもらいたい、生活費等の管理もお願いしたいと考えています。だから、今から受託者(長女)に自宅や金銭の管理処分の権限を与えたい」との意図を持っている訳です。これが、家族信託契約における「信託の目的~自分自身の生活の安定」になります。信託された自宅や金銭について、受託者(長女)は委託者(父)が定めた信託の目的に沿った管理・処分しかできません。そして、長女は受益者でもある父のためだけに、自宅や金銭という財産の管理処分をするのです。整理しますと、前述の例では「委託者(父)が信託した財産(自宅)を、受益者(父)のために、受託者(長女)に管理処分させる」ということになります。受託者の財産管理の処分等権限は、専ら受益者のためであり、委託者が定めた「信託の目的」に拘束されるということをしっかり理解してください。
そして、委託者(兼受益者)は、自身が有する受益権の承継者(後継の受益者)や家族信託の終了の理由、その時期等も契約当初に定めます。前述の例では、「父が死亡したときは、家族信託は終了し、自宅もしくはその売却代金等(信託財産)は長女に帰属させる」等と契約に定めておくことになります。この点、実質、遺言と同じです。

他にも、家族信託のからくりを利用した対策はかなり多くあります。たとえば、ひとつの例を上げると・・
<自宅を空き家にしてしまうリスクを回避する>
想定:20年以上前に父から相続した地方の古い居宅にその長女が1人で居住。長女は自分が死ぬまで住み続けるつもりである。また、この居宅は長女の兄弟である次女・長男・次男との共有不動産となっている(自宅は父の相続発生以来、名義変更もせず、そのままの状態にしていた)。長女以外の兄弟たちは、それぞれ別の都市で自宅を構え居住している。長女亡きあとは、居宅には誰も住む予定はなく、実質、責任をもって管理していく者もない。長女には息子が1人いるが、隣の町に居宅を構え生活している。長女およびその兄弟は高齢化がすすみ、認知症含め身体上の不安が出てきている。現状、各兄弟は、長女への不動産持ち分権の集約等手続きが面倒だと嫌がっている。このままだと、いずれ長女の居宅は空き家となり、近所に迷惑をかけてしまうリスクがある。また、売却等その処分も共有状態のままでは、困難が予想される。
空き家問題は、全国に広がっています。多くの原因は、「”負”動産」としてまともに承継する相続人がいないため、住居人亡き後、そのまま放置されていることが原因です。上記の想定もこのパターンと言えます。想定のケースの対応としては、長女の居宅を信託財産(不動産)にし、「委託者」兼「受益者」は長女とその兄弟、「受託者」を長女の息子として家族信託契約を結んでおけばいいのです。長女が亡くなったとき、この居宅を売却することを家族信託契約時に皆と合意し、信託契約に盛り込んでおけば、兄弟等親族が関与することなく受託者である息子1人で売却処分が出来るようになります。長女より先に他の兄弟が亡くなり、その共有持ち分に相続が発生し共有者が増えることことも想定されますが、その持ち分は信託の受益権に形を変化して相続の対象財産となっていますし、しかもそれを承継する者をあらかじめ契約内に指定しておくこともできます。従って、その場合も、何ら問題もなく長女の息子1人が処分できることに変わりないのです。さらに売却代金は家族信託契約の生存当事者で分けることにしておくことで、全て完結します。「共有者全員の同意と手続きによる」という共有不動産処分の煩わしさを解消できる訳です。
本稿では多くの事例は示しませんが、家族信託はその機能を活かし、抱える課題やニーズに対応する柔軟な設計ができるという点をここではご理解いただきたいと思います。
家族信託関連情報は、当ホームページの<関連コラム~家族信託。ケースバイケースの設計を考える>を是非ご参照ください。

3.家族信託の留意点
生前(終活)対策としては、多くの使える機能を有している家族信託ですが、利用上の留意点もあります。最後、以下の点を押さえておいてください。
①財産を託す受託者は、信頼に足るしっかりした人物を選定すること
②契約前には、必要に応じて家族会議等を開催し、関係当事者が契約の目的と内容を理解すること
③あくまで、「財産」に関する管理・処分・承継の対策であること(前述した委託者・受益者等の認知症等発症における受託者の後見代替機能についても財産に関することだけです。受託者に身上保護等の権利は付与されていません)
④家族信託に税制上の特例等は付与されていないこと(信託財産の受益権は相続税・贈与税の課税対象です)
⑤受託者の権限は、長期に渡り「信託の目的」に拘束されること
⑥家族信託契約の組成や設計は、家族信託に精通した専門家からアドバイスを受けること(設計や運用にあたっては、特に信託法を理解し、信託特有の重要ポイントを把握する必要があるからです)
以上、他にもありますが最低限の留意点を記述しました。

     
家族信託に精通した当事務所の「家族信託組成サポート」を是非ご活用ください。また、お気軽にお問い合わせください。
                               (2026年3月~文責:小山田 真)



家族信託。ケースバイケースの設計を考える!~その1

 後見的機能・遺言的機能等、健常なうちに、生前(終活)対策を検討している方にとって、家族信託は非常に使い勝手のいい仕組みを有しています。基本的に当事者間の契約なので、信託法に則りしっかりした設計と運用をすれば、設定者(委託者)の意図の実現をスムーズに可能にさせる制度と考えます。想定できる家族信託のスキームは数多くありますが、本稿では家族信託をこれから検討する皆様が自分のニーズに合わせた設計の仕方をよりイメージできるよう典型的なスキーム事例をいくつか紹介いたします。なお、まだ仕組みがよく理解できていないと感じている皆様は、家族信託を分かり易く解説した以下のリンクを参照ください。
<これを1回読めば、家族信託を理解できる!

1.本稿でご紹介する各スキームの概要(本コラム~その1・その2に併記)
 ①生存中の高齢夫婦生活の安定、自分亡き後の妻支援兼遺言代用型信託
 ②自分の資産の承継先を次世代以降まで指定する受益者連続型信託
 ③親亡き後の障害者支援福祉型信託
   ④自分亡き後の配偶者支援および相続における遺留分対応型信託
 ⑤先代から承継している兄弟で共有している不動産を一括処分する信託
 ⑥再婚者の生活支援と前妻の子への資産承継を目的にした資産処分型信託
 ⑦後継者にスムーズに事業を託す事業承継型家族信託(1)
 ⑧
後継者にスムーズに事業を託す事業承継型家族信託(2)

2.各個別~家族信託設計の内容(事例紹介)
 ①生存中の高齢夫婦生活の安定、自分亡き後の妻支援兼遺言代用型信託
 (目的)夫(父)の判断能力低下および死亡後に備え、生存中の父および
    父逝去後の妻(母)の生活を長男の適切な財産管理を通じて守り、
    夫婦逝去後の資産を子息に確実に取得させる。また、任意後見契約
    を併用活用し、父の認知症発症後の身上保護についても備えてお
    く。
 (関係当事者とスキーム設計)
    <関係当事者>委託者(父)・当初受益者(父。受益は母の扶養分
     含む)、第2受益者(母)・受託者(長男)・財産の最終的
     な帰属者(長男・長女) なお、長女は父と任意後見契約を締結
     する
    <信託財産>~預貯金と自宅
    <信託の終了>父および母の死亡~信託の残余財産は長男と長女が
          取得
 
 ②自分の資産の承継先を次世代以降まで指定、受益者連続(遺言)型信託
 (目的)父と母に病気等不測の事態が生じても、財産の管理を事前に親族
   に任せておくことで、その生存中の生活安定を図ることができる。
   父死亡後の信託財産につき、母→長男→長男の子(孫)と次世代以降
   まで受益権の承継先として指定しておく。信託財産の管理者(受託
   者)は一番長生きが想定できる長男の妻とする。なお、長男の妻にも
   別途、遺言作成により、相応の資産を付与しておくものとする。
 (関係当事者とスキーム設計)     
   <関係当事者>委託者(父)・当初受益者(父。受益は母の扶養分兼
    含む)、第2受益者(母)・第3受益者(長男)・受託者(長男
    の妻)・信託財産の最終的な帰属者(長男の子) 
   <信託財産>~預貯金と賃貸マンション(兼自宅)
   <信託の終了>長男の死亡~信託の残余財産は長男の子が取得

 ③親亡き後の障害者支援福祉型信託
 (目的)高齢化した親(母)の財産の管理を長女に任せ、親自身と知的障
   害者(長男)および親亡き後の障害者(長男)の持続的な生活安定を
   図る。

 (関係当事者とスキーム設計)     
   <関係当事者>委託者(母)・当初受益者(母。受益は同居障害者の
    扶養分含む
)、第2受益者(長男~障害者)・受託者(長女)
    信託財産の最終的な帰属者(長女) 

   <信託財産>~預貯金と自宅
   <信託の終了>長男の死亡
④自分亡き後の配偶者支援および相続における遺留分対応型信託
(目的)父母が生存中は父が保有する賃貸アパート兼居宅の管理を長男に託
 し、父が当初受益者としてその賃料収入を生活費等に充当、生活を安定化
 させる。父の逝去に伴い、当該信託アパートの受益権は、第2受益者の母
 および長男・長女に継承される。ここで受益権を2つの権利に分離する。
 具体的には、賃料収入(収益受益権)部分は母が取得し、不動産の本体(元本受益権)部分は長男と長女が取得する形にする。このことにより、父
 亡き後も母の生活は安定することに加え、相続法上遺留分を有する長男・
 長女には、当該不動産の元本部分を承継させることにより、遺産分割割合
 の不均衡(遺留分侵害)を是正することができる。
  ※信託財産である賃貸アパートの受益権を収益受益権と元本受益権に分離し、そ
   れぞれの承継先を指定できることも家族信託の特徴。受益権承継時の相続税法
   上の評価額も別々になります。
(関係当事者とスキーム設計)     
  <関係当事者>委託者(父)・当初受益者(父。同居親族の扶養分
    含む
)、第2受益者(母・長男・長女)・受託者(長男)・信託
    財産の最終的な帰属者(長男・長女) 

  <信託財産>~預貯金と賃貸アパート、自宅
  <信託の終了>父および母の死亡~賃貸アパートや自宅は換価処分した
    うえで、残余の信託財産を長男と長女が取得

 ※本スキームは、相続における「配偶者居住権」制度に代替する対策と言えます。 (家族信託。ケースバイケースの設計を考える!~その2に続く)

家族信託。ケースバイケースの設計を考える!~その2

 本稿では、「その1」につづき以下のスキームについてご紹介します。
⑤先代から承継し兄弟で共有している不動産を一括処分する信託
⑥再婚者の生活支援と前妻の子への資産承継を目的にした資産処分型信託
⑦後継者にスムーズに事業を託す事業承継型家族信託(1)
後継者にスムーズに事業を託す事業承継型家族信託(2)

⑤先代から承継し兄弟で共有している不動産を一括処分する信託
 
(目的)先代から承継した地方都市の居宅に長女が居住。当該居宅は、長
  女の兄弟4人との共有となっている。兄弟それぞれが高齢化しているこ
  と、長女亡き後は誰も承継取得する意思はないことを勘案すると、いず
  れ空き家化し、共有者も将来的に増加する可能性がある。長女逝去の
  タイミングで売却処分し、居宅の負動産化を防ぐ。この管理処分権を長
  女の息子に集約し託す(一元管理で手続きの煩雑さも回避できる)。

 (関係当事者とスキーム設計)
   <関係当事者>委託者兼当初受益者(長女・長男・二男・二女・三
       女)・
受託者(長女の息子)・信託財産の最終的な帰属者
       (長女の息子および長女を除く当初受益者、もしくはその相
        続人) 

   <信託財産>~預貯金と居宅
   <信託の終了>長女の死亡と居宅の売却完了をもって終了

⑥再婚者の生活支援と前妻の子への資産承継を目的にした資産処分型信託
 
(目的)自分(夫)亡き後の後妻の生活を所有の自宅活用で安定させる。
    前妻の子(長男)
に対しては、後妻死亡後に自宅等遺産の取得をさ
    せる形にして争族を
起こさせず、加えて姻族への相続財産の分散を
    回避する。長男を信託する自宅等を管理する者として受託者に指定
    する。相続時に活用する配偶者居住権制度の代替的措置にもなる。

 (関係当事者とスキーム設計)
   <関係当事者>夫(委託者兼当初受益者)、後妻(第2受益者)、前
    妻の子(長男、受託者)、信託財産の最終帰属先(長男)

   <信託財産>~預貯金と自宅
   <信託の終了>後妻の死亡をもって終了

⑦後継者にスムーズに事業を託す事業承継型家族信託(1)
 (目的)中小企業の経営者として次期経営者(後継者)は二男と決めてい
   る。自身の健康上の理由で経営が困難になったときに備えて、保有す
   る自社株式の管理は、二男を受託者として任せる。健康時は、自社株
   式の議決権行使は、委託者兼当初受益者である現経営者が行い経営権
    は当面保持するが(議決権行使指図権者となる)、認知症等健康悪化
   時はその権利を二男に移転し、
経営継続に支障が出ないようにする。
   現経営者死亡後は、当該株式を
二男に取得させ、事業承継を完了す
   る。
    ※本スキームは、信託期間中に株式が有する共益権としての議決権行使指図
     権者の指定変更を可能とさせる契約にしていることが大きなポイントとな
     っています。
 (関係当事者とスキーム設計)
   <関係当事者>現経営者(委託者兼当初受益者)、受託者(二男)
       信託財産の最終帰属先は二男
   <信託財産>自社株式
   <信託の終了>現経営者の死亡をもって終了

後継者にスムーズに事業を託す事業承継型家族信託(2)
 (目的)将来、自社株式の価値上昇が見込まれる中、その評価額が低いう
   ちに、中小企業現経営者から次期経営者(長男)に信託した自社株式
   の受益権を長男に移転する(実質的な生前贈与)。現経営者は委託者
   兼受託者(自己信託形式)として、健常な間は議決権行使を行い経営
   権を掌握しておく。自身の健康悪化時(認知症発症等)もしくは死亡
   時を信託終了時期とし、長男に完全に経営権を移転、取得させる。
    ※自己信託(信託宣言)を活用したスキーム。前記の⑦と同様、株式の議決
     権行使指図権者を、契約において適切に指定する工夫をしています。

 (関係当事者とスキーム設計)
   <関係当事者>現経営者(委託者兼受託者)、受益者(長男)
       信託財産の最終帰属先は長男
   <信託財産>自社株式
   <信託の終了>現経営者の健康悪化もしくは死亡をもって終了
 
 
 以上、家族信託の設計(スキーム)パターンをいくつかご紹介しました。家族信託は、それを検討する皆様の様々なニーズや事情に合わせ、柔軟に設計することが出来ることをご理解いただけたと思います。
 ただし、注意しなければならないことは、長期に渡る信託契約期間中には、その契約内容の一部変更を余儀なくされる等の事態が発生することも想定しておかなければなりません。そういった事態にも対応できるよう、当初から契約内容を工夫する等、配慮も必要です。この点からも、家族信託は、専門家のアドバイスを受けながら、活用をすすめることが適切と考えます。

当事務所は家族信託の活用に関し、皆様のご意向やご相談に丁寧に対応いたします。お気軽にご連絡ください。
                     (2026年3月:文責 小山田真)

遺言書作成と家族信託を比較検討する。生前対策(終活)としての適切さは何か。

 家族形態の変化及び少子高齢化の進展、並びに認知症患者の増加等を背景に、生前対策(終活)の大切さも、今、大変クローズアップされています。その中でも、遺言書や家族信託、後見制度の活用が大きく注目されていると思います。特に、自身の健康が不測の事態に見舞われたとき、もしくはその死後、残された家族への配慮を必要とするときは、それをカバーする制度として、これらの対応策は適切なものと言えます。
欧米では、若い時から遺言を作成することは日常的なものであり、その点、日本はまだ対応・意識が遅れているとも考えられます。本稿では、遺言書と家族信託に焦点を置いて、その使い勝手の比較を分かり易く解説し、皆様に導入検討を促したいと思います。ご自身の状況を鑑みたとき、どちらを選択するか、もしくは両方を併用して活用するか等、本稿を通じて適切に判断にしていただければ幸いです。 現在、日本においては、数年以内に高齢者の5人から7人に1人は認知症患者になるとも言われています。長生きすればする程、その罹患の可能性は高まります。また、お一人様世帯の増加や突然死のリスクも存在する背景を考えても、不安を抱えている方は、健康であるうちに、遺言の作成あるいはは家族信託の組成等の対応を取っておくべきと断言します。セカンドライフ等を迎えた高齢者としては、長生きが当たり前になっている一方で、健康も永遠に続く保証がないからこそ、不測の事態に備えておくことで、不安を解消し安心の生活継続に繋げることができます。家族や周囲に迷惑をかけないで安心感をもって余生を過ごしたい、自分がいなくなっても家族が円満にそして幸せに暮らしてほしい。こういった願いを叶えるのがこの2つの生前対策(終活)です。自分を取り巻く大切な人たちのためにもなるとの確信をもってこれらの対策を積極的に検討しましょう。


1. 生前対策(終活)のイメージを場面ごとに考えてみる
遺言書と家族信託は、財産の管理もしくは承継に関する対応がその目的であり、それを遺し、あるいは組成する者の意思を確実に反映・実現させるための制度です。

 上記図は、ライフステージ毎のリスクに備えるための対策イメージ図です。図から分かるように、やはり家族信託はカバー範囲が広くそして対応期間も長いことがはっきりしており、その点機能が充実していると言えます。そのような特徴のみを考えた場合には、家族信託に優位性があると思います。ただ、そういったひとつの側面だけではなく、組成や作成前後の実態を勘案したうえでの利用価値、デメリット等の比較を冷静に行うことが、選択対象として検討していくうえでは重要です。やはり、どちらも一長一短があるのです。下記の比較表を見てください。

<遺言と家族信託の比較表>
      遺言      家族信託
  特徴と活用のメリット ・遺産の処分につき、遺言者が単独で、かつ自由に意思決定できる。また、相続人等受遺者に対しては、財産承継につき条件を付けることも可能である。
・法定割合とは違う遺産承継をしたいとき、争族回避をしたいとき等が主な目的となる。相続人は、基本、遺産分割協議が不要となる。
・作成手続きは簡易であり、低コストである。
・作成後の内容変更や撤回等の対応も可能である。
・相続発生まで、その内容は遺言者のみの秘匿とすることもできる。

・委託者は、健常なうちに、保有する財産につき、管理処分機能、後見機能、承継機能(遺言機能)を受託者に任せられるため安心である。また、2次相続においても財産の承継指定ができる(この点、遺言では不能)。
・契約期間中の委託者や受益者の相続発生においても、その事務手続きが通常と比べ簡易となる。
・財産管理と運用については、委託者自身や家族の状況、構成に合わせ、柔軟な設計ができる。また、不測の事態や状況の変化を想定しての対応策も設計に盛り込める。
・相続税対策含め、積極的な資産活用を受託者に委託できる。
・信託財産には倒産隔離機能がある。
  活用上の留意事項    
  (デメリット含む)
・その効力発生は、あくまで遺言者の相続発生時点である。また、内容によっては、別途遺産分割協議を要する場合もあることに加え、その有効性につき否認されるリスクも残る。
・その所在を明らかにしておく等の対応が必要である。
・遺言者の相続発生時の事務手続きが、家族信託に比べ煩雑である。
・遺言者生存中の財産管理面において、認知症等発症リスクには対応できない。
・作成時は低コストながら、遺言者生存中において、当人に後見制度の活用があった場合、逆に家族信託よりもコストが嵩むことも想定される。
・「自己信託」や「遺言信託」を除き、基本、信託の組成とその内容は委託者と受託者の契約事項となるため、当事者間の理解と同意を要する。
・法的に専門的知識を必要とする部分が多く、専門家を介在させることが適切である。
・少なくとも、組成時には遺言よりは高コストになる場合が多い。また、契約期間中も関係当事者に報酬が発生する場合もある。
・契約期間が長期に渡る場合が多いため、その間、受託者や受益者の判断と行動は信託の契約内容に拘束されてしまう。
・契約期間中は、税務署対応等事務手続きが必要となる(受託者の負担)。
・財産内容によっては、信託の登記を要するため、委託者の意図等プライバシー流出の懸念もある。

上記比較表において、特に家族信託については、すぐには理解が難しい部分、別途分かり易い解説が必要な部分もあるかもしれません。(当ホームページ「これを1回読めば、家族信託を理解できる!!」で、基本的な仕組みは理解できます。是非ご参照ください) ただ、比較表を見ることで、メリットのみならずデメリットも考慮しなければならないことははっきりすると思います。
  比較表における概略を簡単に総括すると・・・  
・導入の対象者が、単独意思で、かつ気軽に活用できるという点においては、遺言である。また、遺言は、生前期間中、その内容を本人が秘匿できるし、作成後の事務的メンテナンスも簡易である。  
・家族信託は、生前に、家族等の同意や理解を得ながら対策を進めるという過程を踏むため、遺言よりもより争族を回避できるツールになる。   
・家族信託は、事前に委託者が自身の財産の活用方法を受託者に指示できるため、認知症発症等生存中のリスクもカバーできる(後見的機能がある)。  
・家族信託は、組成に当たって専門的な知識と理解を必要とすることに加え、組成後(契約発効後)も、定期的もしくは必要に応じた事務負担が生じる。
・基本的に、両制度とも将来の遺産分割を不要にできる。   
・活用の際の金銭的コストは、どちらに優位性があるかは一概に言えない。    
ざっくり、比較表から総括するとこう言ったところでしょうか。 表に示した項目の詳しい解説は本稿では避けますが、冒頭の表題「生前(終活)対策としての適切さ」の観点から考えると、次のような結論になると考えます。  
◎最低限、遺言は必ず遺しておくべきである。  
◎次のまたその次の財産承継、そして自身の生存中の健康リスクにも対応しておきたい場合は 、家族信託が適切である。
以上、遺言・家族信託、どちらも一長一短はありながらも、適切な生前(終活)対策であることはご理解いただけたと思います。勿論、その両方を併用して活用すること(家族信託でカバーしない、又はできない財産は遺言で・・等)もあり得ます。その一長一短を事前に踏まえたうえでの有効活用が適切ということも判明したと思います。

2 補足~比較における大切な視点
 最終的な遺言者もしくは委託者の意思実現という意味においては、一部の家族信託スキームを除き、委託者および受託者が信託契約を締結し、委託者の設定した信託目的に受託者の事務や行動が拘束されるという点等を考えると、家族信託の方が、より高い実現性を担保されていると言えるかもしれません。家族信託は、事前に、委託者自身の意図を家族や親族等の当事者に知らしめ、理解を得ることがポイントになるため、委託者の意図にもとづいた財産の運用及び処分の在り方や・方針もスムーズに受け入れられるものとなると考えられます。逆に、自分の意図を、生前には誰にも知られたくない、もしくは知られるべきではないと考える場合は、家族信託を選択から外すことになるかもしれません。また、対応面において、家族信託はより幅広に充実した内容にできるのは事実ですが、一方で、契約期間中に受託者が負う事務負担、長期間にわたり当事者の行動や手続きが契約内容に拘束され、自由度が制限されること等を勘案しなければなりません。その点、相続発生後の財産分けに特化している遺言は、よりシンプルかつダイレクトであり、以降の煩雑性がないものと言えます。例えば、2次相続まで考慮した受益者連続型の家族信託を考えて見てください。それに拘束される委託者以外の当事者にとっては、遺言で一代限りの財産承継を決められていた場合に比べ、先々の相続財産の扱いまで自由な裁量を制限され、拘束されてしまう訳です。また、家族信託は、その準備と特徴や仕組みの理解についても、分かり易く直接説明を耳で聞かないとピンと来ない方も多いと思います。加えて、正しい理解のもと、組成時に入念な作りこみをしておかないと、本来有する機能を大きく活かせていない設計になっている、あるいは想定外事象の発生等難題に対応できない設計になっている等の不足感が生じてしまう可能性もあります。そういった観点からも、家族信託は、組成時のみならず、運用期間中においても専門的アドバイザーによる伴走が適切であると考えます。
生前(終活)対策全般に言えることは、制度上の機能やメリット面のみならず、当人が有する固有の状況を踏まえたうえでの取捨選択をすべきものと思料します。 日本においては、遺言はさることながら、家族信託もかなり普及してきています。しかし、 特に家族信託については、今後さらなる法整備やその解釈の確定化が求められる点があることから、現時点では、専門家による助言や指南が大切な制度と言えます。また、遺言の作成も、将来、確実かつ円滑に実現させるとの観点に立ち、法的に許される機能を存分に生かし、相続人等受遺者に混乱を来たさない内容にすることが大切です。これも、専門家の助言を受けながらすすめることが適切です。

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