遺言書作成と家族信託を比較検討する。生前対策(終活)としての適切さは何か。

遺言書作成と家族信託。そのメリットとデメリットを理解しましょう!

 家族形態の変化及び少子高齢化の進展、並びに認知症患者の増加等を背景に、生前対策(終活)の大切さも、今、大変クローズアップされています。その中でも、遺言書や家族信託、後見制度の活用が大きく注目されていると思います。特に、自身の健康が不測の事態に見舞われたとき、もしくはその死後、残された家族への配慮を必要とするときは、それをカバーする制度として、これらの対応策は適切なものと言えます。
欧米では、若い時から遺言を作成することは日常的なものであり、その点、日本はまだ対応・意識が遅れているとも考えられます。本稿では、遺言書と家族信託に焦点を置いて、その使い勝手の比較を分かり易く解説し、皆様に導入検討を促したいと思います。ご自身の状況を鑑みたとき、どちらを選択するか、もしくは両方を併用して活用するか等、本稿を通じて適切に判断にしていただければ幸いです。 現在、日本においては、数年以内に高齢者の5人から7人に1人は認知症患者になるとも言われています。長生きすればする程、その罹患の可能性は高まります。また、お一人様世帯の増加や突然死のリスクも存在する背景を考えても、不安を抱えている方は、健康であるうちに、遺言の作成あるいはは家族信託の組成等の対応を取っておくべきと断言します。セカンドライフ等を迎えた高齢者としては、長生きが当たり前になっている一方で、健康も永遠に続く保証がないからこそ、不測の事態に備えておくことで、不安を解消し安心の生活継続に繋げることができます。家族や周囲に迷惑をかけないで安心感をもって余生を過ごしたい、自分がいなくなっても家族が円満にそして幸せに暮らしてほしい。こういった願いを叶えるのがこの2つの生前対策(終活)です。自分を取り巻く大切な人たちのためにもなるとの確信をもってこれらの対策を積極的に検討しましょう。


1. 生前対策(終活)のイメージを場面ごとに考えてみる
遺言書と家族信託は、財産の管理もしくは承継に関する対応がその目的であり、それを遺し、あるいは組成する者の意思を確実に反映・実現させるための制度です。

 上記図は、ライフステージ毎のリスクに備えるための対策イメージ図です。図から分かるように、やはり家族信託はカバー範囲が広くそして対応期間も長いことがはっきりしており、その点機能が充実していると言えます。そのような特徴のみを考えた場合には、家族信託に優位性があると思います。ただ、そういったひとつの側面だけではなく、組成や作成前後の実態を勘案したうえでの利用価値、デメリット等の比較を冷静に行うことが、選択対象として検討していくうえでは重要です。やはり、どちらも一長一短があるのです。下記の比較表を見てください。

<遺言と家族信託の比較表>
      遺言      家族信託
  特徴と活用のメリット ・遺産の処分につき、遺言者が単独で、かつ自由に意思決定できる。また、相続人等受遺者に対しては、財産承継につき条件を付けることも可能である。
・法定割合とは違う遺産承継をしたいとき、争族回避をしたいとき等が主な目的となる。相続人は、基本、遺産分割協議が不要となる。
・作成手続きは簡易であり、低コストである。
・作成後の内容変更や撤回等の対応も可能である。
・相続発生まで、その内容は遺言者のみの秘匿とすることもできる。

・委託者は、健常なうちに、保有する財産につき、管理処分機能、後見機能、承継機能(遺言機能)を受託者に任せられるため安心である。また、2次相続においても財産の承継指定ができる(この点、遺言では不能)。
・契約期間中の委託者や受益者の相続発生においても、その事務手続きが通常と比べ簡易となる。
・財産管理と運用については、委託者自身や家族の状況、構成に合わせ、柔軟な設計ができる。また、不測の事態や状況の変化を想定しての対応策も設計に盛り込める。
・相続税対策含め、積極的な資産活用を受託者に委託できる。
・信託財産には倒産隔離機能がある。
  活用上の留意事項    
  (デメリット含む)
・その効力発生は、あくまで遺言者の相続発生時点である。また、内容によっては、別途遺産分割協議を要する場合もあることに加え、その有効性につき否認されるリスクも残る。
・その所在を明らかにしておく等の対応が必要である。
・遺言者の相続発生時の事務手続きが、家族信託に比べ煩雑である。
・遺言者生存中の財産管理面において、認知症等発症リスクには対応できない。
・作成時は低コストながら、遺言者生存中において、当人に後見制度の活用があった場合、逆に家族信託よりもコストが嵩むことも想定される。
・「自己信託」や「遺言信託」を除き、基本、信託の組成とその内容は委託者と受託者の契約事項となるため、当事者間の理解と同意を要する。
・法的に専門的知識を必要とする部分が多く、専門家を介在させることが適切である。
・少なくとも、組成時には遺言よりは高コストになる場合が多い。また、契約期間中も関係当事者に報酬が発生する場合もある。
・契約期間が長期に渡る場合が多いため、その間、受託者や受益者の判断と行動は信託の契約内容に拘束されてしまう。
・契約期間中は、税務署対応等事務手続きが必要となる(受託者の負担)。
・財産内容によっては、信託の登記を要するため、委託者の意図等プライバシー流出の懸念もある。

上記比較表において、特に家族信託については、すぐには理解が難しい部分、別途分かり易い解説が必要な部分もあるかもしれません。(当ホームページ「これを1回読めば、家族信託を理解できる!!」で、基本的な仕組みは理解できます。是非ご参照ください) ただ、比較表を見ることで、メリットのみならずデメリットも考慮しなければならないことははっきりすると思います。
  比較表における概略を簡単に総括すると・・・  
・導入の対象者が、単独意思で、かつ気軽に活用できるという点においては、遺言である。また、遺言は、生前期間中、その内容を本人が秘匿できるし、作成後の事務的メンテナンスも簡易である。  
・家族信託は、生前に、家族等の同意や理解を得ながら対策を進めるという過程を踏むため、遺言よりもより争族を回避できるツールになる。   
・家族信託は、事前に委託者が自身の財産の活用方法を受託者に指示できるため、認知症発症等生存中のリスクもカバーできる(後見的機能がある)。  
・家族信託は、組成に当たって専門的な知識と理解を必要とすることに加え、組成後(契約発効後)も、定期的もしくは必要に応じた事務負担が生じる。
・基本的に、両制度とも将来の遺産分割を不要にできる。   
・活用の際の金銭的コストは、どちらに優位性があるかは一概に言えない。    
ざっくり、比較表から総括するとこう言ったところでしょうか。 表に示した項目の詳しい解説は本稿では避けますが、冒頭の表題「生前(終活)対策としての適切さ」の観点から考えると、次のような結論になると考えます。  
◎最低限、遺言は必ず遺しておくべきである。  
◎次のまたその次の財産承継、そして自身の生存中の健康リスクにも対応しておきたい場合は 、家族信託が適切である。
以上、遺言・家族信託、どちらも一長一短はありながらも、適切な生前(終活)対策であることはご理解いただけたと思います。勿論、その両方を併用して活用すること(家族信託でカバーしない、又はできない財産は遺言で・・等)もあり得ます。その一長一短を事前に踏まえたうえでの有効活用が適切ということも判明したと思います。

2 補足~比較における大切な視点
 最終的な遺言者もしくは委託者の意思実現という意味においては、一部の家族信託スキームを除き、委託者および受託者が信託契約を締結し、委託者の設定した信託目的に受託者の事務や行動が拘束されるという点等を考えると、家族信託の方が、より高い実現性を担保されていると言えるかもしれません。家族信託は、事前に、委託者自身の意図を家族や親族等の当事者に知らしめ、理解を得ることがポイントになるため、委託者の意図にもとづいた財産の運用及び処分の在り方や・方針もスムーズに受け入れられるものとなると考えられます。逆に、自分の意図を、生前には誰にも知られたくない、もしくは知られるべきではないと考える場合は、家族信託を選択から外すことになるかもしれません。また、対応面において、家族信託はより幅広に充実した内容にできるのは事実ですが、一方で、契約期間中に受託者が負う事務負担、長期間にわたり当事者の行動や手続きが契約内容に拘束され、自由度が制限されること等を勘案しなければなりません。その点、相続発生後の財産分けに特化している遺言は、よりシンプルかつダイレクトであり、以降の煩雑性がないものと言えます。例えば、2次相続まで考慮した受益者連続型の家族信託を考えて見てください。それに拘束される委託者以外の当事者にとっては、遺言で一代限りの財産承継を決められていた場合に比べ、先々の相続財産の扱いまで自由な裁量を制限され、拘束されてしまう訳です。また、家族信託は、その準備と特徴や仕組みの理解についても、分かり易く直接説明を耳で聞かないとピンと来ない方も多いと思います。加えて、正しい理解のもと、組成時に入念な作りこみをしておかないと、本来有する機能を大きく活かせていない設計になっている、あるいは想定外事象の発生等難題に対応できない設計になっている等の不足感が生じてしまう可能性もあります。そういった観点からも、家族信託は、組成時のみならず、運用期間中においても専門的アドバイザーによる伴走が適切であると考えます。
生前(終活)対策全般に言えることは、制度上の機能やメリット面のみならず、当人が有する固有の状況を踏まえたうえでの取捨選択をすべきものと思料します。 日本においては、遺言はさることながら、家族信託もかなり普及してきています。しかし、 特に家族信託については、今後さらなる法整備やその解釈の確定化が求められる点があることから、現時点では、専門家による助言や指南が大切な制度と言えます。また、遺言の作成も、将来、確実かつ円滑に実現させるとの観点に立ち、法的に許される機能を存分に生かし、相続人等受遺者に混乱を来たさない内容にすることが大切です。これも、専門家の助言を受けながらすすめることが適切です。

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